コインケース製作と その心もち その2

前回からの続きです。

コインケース、形になりました。
今回の個体は本場米国製のシニュー糸を使用。
シニュー糸の特長でもある太さ調整。先ず数本(4~6本)に割き、太さを調整し撚り直し造作に最適と思われる手縫い糸に仕立てなおし手縫いしました。

革が良質部位なこともあり、糸はシッカリと革の丸みに追随し縫製ラインに嵌まりこむよう治まっています。

こちらの画像は硬貨を収納する側、製品でいえば裏側から見たところです。
表側から見たシルエットとは違って、更にふっくらとしたフォルムに仕立ててあります。こうすることで内容量を確保し、ケース自体は小ぶりながらそれなりの硬貨を収納できます。

平面的な状態で供給される革素材ですが、元々生きていた時は丸みがあって存在するものです。
それを再現とまではいきませんが、革の持つ柔軟性と元々の丸みを活かすよう無理のないフォルムに形作ることを大切にしています。

自分の考えですが、本来あった以上の立体を出す時には、構成パーツの割り振りを別けて立体化するほうが革に優しく無理のない物になると考えています。
大きくカパっと開きます。
参考画像では、各国の旧硬貨(大きめなコイン多し!)を入れてみたので、解りづらいですが、それなりの量が収容可能。

カブセ部分がが受け皿となり硬貨を受け止めますので出し入れも容易です。
またその外周部の補強を兼ねて縫い付けられた見返しパーツが、硬貨が飛び出さないように防壁の役割もになっています。

横方向から見た様子です。少し斜め上からの画像なので平面的に見えますが、実際には大きな貝のような立体感があり。
お客様からは思っていたよりボリュームがあるとの感想を頂くことがありますね。

それは実測値よりも革のもつ雰囲気や質感の影響で、実際よりも重厚に大きく感じられたこともあるのではと推測。本革って素材はホント存在感ありますからね。

おおよそですが、厚みは【2.5~2.8センチ位】
革の質感や、それによって漉きあげる厚み調整によっても変わってまいります。

ちなみにサイズを申しますと、【横幅80mm 縦寸67mm】 ほどです。

 

ちょっと戯言ってみます。(笑)
マチを使わす革の硬度を活かし立体化することで強度を保ち、尚且つ外観がプレーンに仕上がったコインケースは殆ど存在しないと思います。

その秘密は設計や素材にもありますが、この型に関して一番のポイントは最高品質のスナップ金具を内側に入れ込んだことで実現できました。シンプルに見えるこの造作ですが、立体化される前の平面の状態で、予め計算通りに金具を取り付け、立体化した後にも上手く留まるように作ることはそれなりに経験を従う作業なのかもしれません。
他ではあまりみられない素材と構造の組み合わせではないでしょうか。

作り手には面倒で作りづらく、見る方にとっては只々普通に見える仕上がり。
ストーヴル製品はどれもそんな感じの取り組みばかりしておりやす。
なんか報われない感が半端ないのが、うちストーヴル工房なんすかね。。

 

本題に戻りまして。
前回からの表題は何とはなしにきめたのですが、気がつくと【心もち】なんて大きなことになってました。

それほど大それた思いというほどのことはないかなぁと思うのですが、いつも第一に考えるのは、御依頼主の御希望にできるだけ添えるようにつくること。もちろん喜んで頂くことは作り手にとっても本当に嬉しいことですし。結果、長く御使用頂けることにつながると思うのです。

あと同じくらい心にあるのは、革が報われるようにしたいという思いです。感覚的なことで当初は自分でも無意識な部分でしたが、落ち着いて考えるとそのような思いから向き合っていることに気づきました。
生きてお肉になって人間皆のために生産消費された動物達がいます。
副産物としての存在でもあるレザーですが、微力ながら自分をはじめ作り手達の多くが長く使えて愛されるに値する物を作ることができれば、少しは許してもらえるのかなぁと勝手に思いこんでいる感じです。

それらの思いをベースに少しでも良いものに近づけるためには、革に無理が掛かる造作は致しません。
世間で多くの方々がネガな物と勘違いされているシワや小傷(生きていた時について癒えた痕など)は堅牢度に影響が殆どないこと、愛すべき印でもあるそれらを用いた造作は表情となり愛着につながっていくということを御理解頂けるように努めなければならないと感じています。

少々綺麗ごとを書きすぎたきらいがありますね。

革が魅力的で好きだということ、そこだけは嘘のない真実であります。

 

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コインケース製作と その心もち その1

stovl leather logでもお知らせしているコインケース。
ストーヴルレザーでは以前から立体感のある小銭入れを幾型も作ってきました。
今回の形は外装部に留め金具などをもたないルックス的にはシンプルなモデルで、ここ数年コインケースの定番品としてつくっているカタチ。

自分の場合だけかもしれないですけど、コインケースやキーケース・キーホルダーなどのわりと小さなアイテムを作る秘訣は、小さくシンプルな物だからといった心持ちを捨てることから始まります。

小さい・シンプルといった思いこみを最初にもってしまうと、やはりそれなりの仕上がりになってしまうものです。

作り手としては、大きなもの/複雑なものと同じように取り組むのは当たり前のことではありますが、実践するのは簡単なことではありません。実際市場で市販されている物の多くは、メーカー側から廉価版との捉えられ方で作られてはいないでしょうか。
生産性だけを考えれば、シンプルなもの小さなもののほうが、シッカリとしたものを作れば効率や採算性は失われていく傾向があるのも事実です。

小さく・シンプルな物ほど、いつも以上に手間を惜しまず作ってきたいものです。

おっと話を戻します。
当方のコインケースは、収納容積を確保するためにマチとなるパーツを使用していません。多くの場合、革を立体化して容積を確保するのがストーヴルのやり方です。

革を立体にするには革自体はもちろんのこと構造体としての硬度が必要になります。それを実現するためには革の厚みの決め方がとても大切になるのですが、革の質感によっても、その最適値は変わってきます。
作るアイテムや革の種類ごとにストーヴルの考える最適値が存在します。

このコインケースの場合、その理想値にそった厚みのままでは、厚過ぎて開閉留めの金具をカシメることが出来ません。(金具の足部分の長さが選べる物もありますが)
そのため、金具をカシメる付近だけコンマ数ミリ漉き削りこむ必要があります。(目打ちの先にある小さな穴がスナップ金具の嵌まるところ)

削り込む革の床(裏)の表情が崩れずなだらかになるよう革包丁を使い手漉きで仕立てていきます。これが結構地道な作業でして、牛歩のような進度で慎重にに仕上げ金具とのカシメ具合を見ながら調整。
おそらく今までストーヴル製品のユーザーさんの中で、こういった加工がされていたことに気づかれた方は殆どいらっしゃらないのではないかと思います。

どこにも違和感なく普通に見えて、使う方には何も不具合なく感じられる。
これがストーヴルにとっては理想の仕上がりかたなんです。

ちなみにうちで使っているスナップ金具は良いものですよ。(笑)
凸側は真鍮削り出しの物(画像のはそれにメッキかけてあるタイプ)で、それを革にカシメる裏側の部品は銅の無垢材なんです。
製法や素材そのものの質感だけではなく、留め/外すときの「コクッ」とした節度感が他のスナップとは全く違います!
これに出会ってからは他のスナップは使えなくなりました。

画像は、縫製やなんやら幾つもの工程を飛び越えて既に形になった状態。
全体の立体化も済んで、形状安定後に全体のシルエットを調整しているところ。

私の場合は、革断ち包丁を使いコバを均して、縫い引き締めることによって断面にあらわれる糸の太さ分の凹凸や、裁断や縫製工程だけでは取りきれない革の癖やうねりをコバの面取り調整をすることでより美しいシルエットに修正していきます。

このコインケースの丸みのあるシルエットは滑沢ゆえ、持ちやすさや使いやすさも考慮して、コバのエッジをどれくらい落とすかも質感向上の大事な要素になります。
これらの工程は、追及すればするほど本当にきりの無い作業でして、どこで終わりにするかの判断はとても難しいものです。

この後、コバに磨きを入れ、補油メンテナンスと続き完成に近づいて参ります。

その辺は、また明日以降「その2」でお伝えしたいと思います。